143ミリリットルの小さなガラスのコップ、銑鉄製の鍋、低い背もたれのない椅子、酒の販促、酒拳(酒の席での遊び)、それからゴーヤと塩漬け卵の炒め物、水連の炒め物、イカの嘴の炒め物などの料理…台湾人はこれらのいくつかのアイテムを見ただけで、それが「熱炒店(台湾式居酒屋)」の1シーンであるとわかります。台湾スタイルの熱炒文化を探求する専門ジャーナル《現地熱炒》の編集長 柯景瀚氏は親しい友人たちと熱炒店で集い、この台湾で人々がよく飲み食いする賑やかな形態についてざっくばらんに語ってくれました。


色と香り、味がすべて備えたダイナミックでアクティブなパフォーマンス


大学で歴史を専攻した柯景瀚氏は、友人の熱炒店での撮影プロジェクトの実施を縁として、熱炒文化の世界を突き詰めるために飛び込みました。「熱炒店に行くなら、一人で行くことはまずありません。このため熱炒店は、日常生活の中における一種の『局(集い)』を提供している可能性があります。」

夜市は一人で行くことができますが、熱炒店は必ず誰か連れ合いが必要となります。このため「局(集い)」と呼んでいます。必ず複数の人々と集う必要があることを意味しているのです。

 

「お手頃価格の美味しさ」を追求する熱炒店は、若者たちが心ゆくまで飲み食いして夜の時を楽しむことができるだけでなく、職場、さらには家族のつながりを強めるための絶好の場所でもあるのです。熱炒店の常連客として柯景瀚氏は「ある時、雑誌社と熱炒店で商談をする約束をしました。店の雰囲気が本当にリラックスしていたことから、思いもよらず夜10時から午前1時ころまで語り合ってしまいました。」と思い起こしていました。夕食から夜食の時間帯までを跨ぐ「局(集い)」は、1分1秒ごとに日中の警戒心が緩んでいきます。これはすべて、熱炒店の空間を流れる生き生きとした雰囲気のなせる業なのです。

素晴らしいものが多すぎて鑑賞するのに追いつかないほどの視覚的な盛沢山さが、熱炒店の賑やかな雰囲気を醸し出すキーポイントなのです。一般的に熱炒店の前には水がしたたり落ちる新鮮な食材が並べられています。色鮮やかで、味覚を刺激します。暖かみのある色合いのランプは、夜の始まったばかりの時、情熱的で気前の良いオーナーのように、賑やかに行き交う人々の群れにはっきりと見えるよう絶え間なく手招きしています。室内スペースから溢れ出して適当に置かれた椅子やテーブルは、一種の拘束されない自由さを醸し出しています。さらに色も香りも味も全て備えたテーブル一杯の美味しい料理、客が杯を上げ划拳(多人数で遊ぶ数合わせのような酒の席での遊び)する相互コミュニケーションによる盛り上がりが加わります。熱炒店がいつでも抗いがたい魅力を持つのもうなずけます。

 

「実のところ、熱炒店での飲み食いはライブ演奏を聴くのにとても良く似ています。ライブの相互コミュニケーション感があり、その中にいる人々は様々なランダムなイベントの中へと組み込まれていくからです。」と《現地熱炒》のカメラマン 鄭弘敬氏は言います。例えば不意にやってくる誕生日のお祝い、または宴もたけなわとなった後でのコントロールを失った行動。どれもが熱炒店には永遠に存在する、ある種の瞬間的に変化する「アクティブ感」であり、絶えることのない生命力が力強く放たれているのです。

 

柯景瀚氏は聴覚の面からこの観察を補足してくれました。「熱炒店のサウンドはいつもとても雑多です。各テーブルの客人たちによる話し声のほか、乾杯により絶え間なく聞こえてくる澄んだ音と厨房の鍋やフライ返しの音が聞こえてきます。これらは五感を刺激し続けます。熱炒店は公共の場の中で、最も賑やかな集いの場のスタイルであると言えるでしょう。」

 
 

お手頃価格で親しみやすい。庶民の生活の記憶となる


熱炒というこのユニークな飲食スタイルは、いったいどこからやって来たのでしょうか?≪現地熱炒≫ではデータの調査と現地でのインタビューの後、1990年代後半、経済の飛躍に伴い人々の収入も増加し、仕事以外での集まりへのリクエストが大幅に向上したことによるものだと推測しています。熱炒の手ごろな価格、さらにすばやく便利な特徴が加わり、各地の熱炒店は非常に喜ばれ、選択肢もどんどん増えていきました。現在、ほとんど台湾全土で熱炒店の姿を見ることができます。地図を開けば、台北での熱炒店の密度が非常に高いことを発見するのは難しいことではありません。それにほとんどがMRT沿線とオフィスエリアに集まっています。これも熱炒が発展してきた背景と関連があります。「例えば林森北路、市民大道と隣接する東区の六張犁一帯には、どこにも非常にたくさんの熱炒店があります。」

「熱炒店の都市における意義とは、市井に生きる人々の生活の中を代表する飲食だということです」と柯景瀚氏は言います。小さな熱炒店は、まるで地方の縮図のようです。この点を非常に大きな範囲がカバーされているメニューによって体感することができます。例えば日本料理、焼肉、客家小炒(客家料理)、先住民のイノシシ肉料理など、一挙に様々なグループの飲食の特色がカバーされています。「日本式の居酒屋と比べて熱炒店のメニューは、台湾の多元的なグループの歴史的な流れにより寄り添っているのかもしれません。」

 

熱炒はすでに市民の普段の生活における重要な一部分となっています。熱炒を楽しむことにより伴われる特殊な風景は、それぞれの記憶の中に存在するだけでなく、台湾の庶民文化を代表するイメージであることに間違いありません。この次に友人と熱炒店で飲みかわす約束をしたのなら、五感を研ぎ澄ませて、しっかりと台湾特有の賑やかな雰囲気を感じてみてください。

 
 

敬酒(台湾式乾杯)の豆知識


熱炒店を訪れたなら、酒を痛快に楽しむことを忘れてはなりません。いかにして豪快に飲み失礼に当たらないか。柯景瀚氏が4つの豆知識を教えてくれました。

1.年上の人同士が酒を酌み交わして話が弾んでいるのを見計らい、続いて年下の人が敬意を表して年上の人に酒を進めて酒を酌み交わします。

2.乾杯する時、年下の人の杯は年上の人より低めに位置するように持ちます。

3.「杯底不可飼金魚(杯に水があり金魚を飼えるがごとく、酒を杯に残してはならない)」。正常に飲みきれる十分な酒量があれば、年下の人は一気に飲み干さなければなりません。 

4.終わりの動作にもご注意を。年下の人は年上の人が先に杯を置いてから、自分もそれに倣いましょう。